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【第2版】口から食べる幸せを

サポートする包括的スキル

KTバランスチャートの活用と支援

KTフォーク

意匠登録証

口から食べる幸せを守る会®

 商標登録証

KTBCインストラクターについて

2023.11.7作成

1)背景

 本邦は高齢化率が加速し、平均寿命も延びているが、多死社会でもある。2022年の死因においては、老衰・誤嚥性肺炎・認知症の死亡率が増加している。いずれも背景には摂食嚥下障害に関連した併存疾患を多数有している要介護高齢者であり、超々高齢社会がもたらす逆らえない命の摂理と言わざるを得ない。とりわけ、栄養療法の普及や生命に対する価値観の多様化により、人工栄養のみで生き永らえることを余儀なくされている人々も多く存在している。人生の最期まで食べ続けたいと願っても、それが叶わない長寿社会に直面しているといっても過言ではない。

 食べる支援の価値は社会的にも認められるようになったが、課題は山積している。超高齢社会で、より幸福に生き抜くためには、本人や家族の希望に即して、可能な限り食べ続けて幸せな時間を過ごせること、食べる支援をどこで生活していても当たり前に受けられることが必要である。そのためには、社会全体の食べることの重要性に関する理解と包括的支援スキルを有した人材が必要である。

 以上のことから、口から食べるためのサポートは、栄養や摂食嚥下機能に加えて、QOLを勘案した「生活者としての包括的視点」での多職種連携による評価と支援スキルが求められる。今後少子高齢化が加速するなか、KTBCの理論と実践的スキルを身に着け、実践や教育の現場で啓発活動ができる人材育成を行うことは、対象となる人々との相互関係による幸せ時間を共有し、遣り甲斐をもって食支援ができる人材の輩出になると考えられる。

2)目的

 口から食べることが困難な人に対して、個別性に応じたKTBCによる包括的評価や支援スキルを用いて実践を行い、院内外でKTBCについて普及活動ができる人材を輩出することを目的とする。また、KTBC展開にて、対象となる人を深く理解し、支援のスキルを高めたいと願い、成果を感じることができる道筋を支援するために行う。

3)資格要件

・KTSM会員であること(個人会員または団体会員)
・KTBCインストラクター講座3回のリアル受講と所感の提出(日程が合わない場合は要相談)
・事例提出後の査読に合格すること
・KTSM主催・共催の実技セミナーに参加していること
・3年毎の更新とし、(要件として活動報告の提出)事例を提出していただき査読に合格すること

4)資格取得後の特典

・KTSMホームページで紹介(氏名・職種など)

・KTBCについての基本的パワーポイント貸与

・KTBCの理解や事例展開などについて講座を開催

・認定希望者の提出事例についての査読

5)KTバランスチャートについて

 摂食嚥下障害がある人にとって、口から食べるためには、多面的で包括的な評価・アセスメント・スキル・チーム連携が必要である。口腔ケアや姿勢調整をすれば、安全に食べられるわけではなく、誤嚥していると評価されたからといって好きな食べ物が食べられないわけでもない。口からおいしく安全に食べるための支援は、心身の調和を図りながら、不足を補い、強みを伸ばす生活者としての包括的支援スキルが重要である。

そこで、KTバランスチャート“口から食べるバランスチャート(Kuchikara Taberu Balance Chart:以下KTBC)”という当事者主権の評価ツールを開発し、2015年に発表した。その後2017年には信頼性・妥当性が検証された内容を反映したKTバランスチャートにブラッシュアップしした1・2)。この評価は、身体侵襲がなく、簡易的であるため多職種で総合的に評価しながら、対象者の良好な点と不足な点を抽出した上で、その変化が可視化できるツールになっている。

KTBCは以下4つの側面と①~⑬の評価項目で構成されている。

 1)心身の医学的視点:①食べる意欲、②全身状態、③呼吸状態、④口腔状態  2)摂食嚥下の機能的視点:⑤認知機能(食事中)、⑥咀嚼・送り込み、⑦嚥下  3)姿勢・活動的視点:⑧姿勢・耐久性、⑨食事動作、⑩活動  4)摂食状況・食物形態・栄養的視点:⑪摂食状況レベル、⑫食物形態、⑬栄養

上記13項目それぞれを評価指標に基づいて1~5点でスコア化し、レーダーチャートを作成することで、評価点の低い項目へのケアの充実とステップアップしていくためのアプローチスキルを見出せる。また、評価点の高い項目を良好な側面として、強みから不足部分をカバーできるようなアプローチを展開していくことで、生活者としての調和を包括的にめざすことができるようなしくみとなっている。さらに、介入後の変化がレーダーチャートで可視化されるため、共通言語となり、対象者や家族も含めた多職種間で現状をビジュアルで共有できる。

 初回評価における全体像の把握、アプローチ方法の検討、多職種間の連携、入退院先への情報提供、地域連携、本人・ご家族への説明などの情報共有に有用である。 なお、KTBC評価は、点数をアップさせるためだけのものではない。病状の進行・終末期などは、あえて点数を下げなければならない場合もあり、あくまで個別に応じた対応とする。

KTBCは、パソコン・スマートフォン・タブレットで、評価・アプローチ・記録が共有できる無料ウェブサイトとしても開発されている3)。https://ktbc。jp

 

1) Maeda K、 Shamoto H、 Wakabayashi H、 et al: Reliability and Validity of a Simplified Comprehensive Assessment Tool for Feeding Support: Kuchi-Kara Taberu Index、 J Am Geriatr Soc、 64:248-252、 2016。

2) 小山珠美編:口から食べる幸せをサポートする包括的スキル-KTバランスチャートの活用と支援-第2版、医学書院、東京、2018、 12-94。

3) 小山珠美編:KTバランスチャートサイト、https://ktbc。jp、2023。

6)講座内容

摂食嚥下障害や認知機能低下により、自力での食事摂取が困難な方々へ安全・安楽・自立性などを意図した食事介助方法について、3回コースで基本から応用までを習得するオンラインセミナーを開催

 

Day1:KTBCに基づいた安全・安楽・自立・QOLを高める食事介助の基本的知識

・食支援の現状と課題

・食べる支援を包括的に行うためのKTBC理解と支援スキル

・KTBC13項目の点数のつけ方と留意点

・ハンズオン(基本的な食べるメカニズムを食品によって体験)

 

Day2:食事介助技術を向上させるための包括的食事介助技術とテクニック

・安全・安楽・自立・QOLを意図した食事介助(録画ビデオ)

・姿勢・テーブル・食具の使い方で変わる食事介助

・食事介助におけるテーブル、スプーンやフォークの正しい使用法

・ハンズオン(誤嚥を予防する適切な食べ方・介助と不適的な食べ方・介助、スプーン&フォークテクニック)

 

Day3:認知症を理解し適切な食事環境や介助の技術

・認知症による摂食嚥下障害の概要

・症状や状態に応じた食事介助

・認知症タイプ別や重症度に応じた対応

・ハンズオン(認知症特有の困難場面での食事介助技術)

 

■ハンズオン使用物品

・飲み物(なんでもよい)、コップ(深いものと浅いもの)、小皿1枚(咀嚼品を入れる器)

・ヨーグルトかプリンかゼリー類1個 (多めに準備)

・クッキーかせんべいなど数枚

・突き刺して捕食が必要なフルーツや野菜類(咀嚼品としてバナナやキウイなどなんでも可)

・小スプーン・大スプーン・大フォーク・箸・ストローを各自で準備(KTスプーンやフォークがあると違いを理解しやすい)

・バスタオル類(肘の安定に使用します)

※ハンズオンの相互演習ではご家族参加可

7)事例展開

 基本の記入様式にそってKTBCの13項目と、臨床倫理や多職種連携などの情報を整理し、介入前後の2シートについて観察・アセスメント・プラン・フィードバックを行う。

口から食べる幸背をサポートする包括的スキル-KTバランスチャートの活用と支援-(医学書院)

https://www.igaku-shoin.co.jp/book/detail/93200

を用いて詳細なアセスメントやフィードバックを記載し、「When:いつ」「Where:どこで」「Who:だれが」「What:何を」「Why:なぜ」「How:どのように」といった思考整理のフレームワークの習慣を身に着けることができるようにアドバイスする。

 

【講座で紹介する認知症による食事摂取困難と支援の方向性について】

口を開けない、口を閉じない、ため込む、食事動作が止まる、飲み込まない、吐き出すなどの行為があるが、ここには当事者なりの心身の理由がある。美味しくないかもしれないし、認知症が進行して、摂食嚥下障害や低栄養を来していないか?不適切な食事環境や介助が原因となっていないか?不良姿勢や不適切な食物形態になっていないか?捕食動作が困難で食べ方がわからないでいるかもしれない、幻視があるかもしれない、薬剤の副作用で錐体外路症状を呈しているかもしれないなどの原因・誘因を探る努力が必要である。認知症の終末期はどのタイプであれ、脳が萎縮し機能低下を引き起こす、手足を動かす錐体路、スムースに動かす錐体外路、動作・用具使用・口への取り込み・咀嚼・送り込みに関与する脳神経系、大脳皮質の視空間認知や記憶や情動、食べ続けるための注意・集中・遂行機能を含めた大脳皮質連合野、楽しくおいしいなどの情緒を支配する大脳辺縁系が変性的に萎縮していくことを念頭におき、対応策を検討することが必要である。

 前頭葉や大脳辺縁系の症状が顕著で、第3者の介入を拒絶し、ペース配分が早い場合は、窒息などの事故が起こらない限り、見守る。遠目で観察し、直接的な介入は最小減とした方が患者・ケア提供者のストレスを軽減できることになる場合がある。但し、やるべきこととして、小分けの皿、小スプーンの使用、安定した姿勢調整、テーブルの使用、食物形態の調整、義歯調整などは整えておかなければならない。加えて、窒息事故が起こった場合の対処について準備したり、家族にそのリスクを伝えたりして、記録に残しておくなどのリスクマネジメントが必要である。思考や行為が性急で衝動性が強い場合は、指示理解が不良な上に、待つことができないため、できるだけ待たせないよう準備を整えてから配膳する。そして、「よく噛んで食べるとおいしいですよ」などの言葉かけを愛護的にかけ、否定語を使わないことも重要である。

 認知症が進行すると言葉を発しなくなり、ベッドに横になったまま何もしようとしなくなり、食べることも嫌がり、無理強いすると易怒性が再燃する場合もある。錐体路・錐体外路障害や、前頭葉症状によるADL低下は著しくなり、視床下部まで障害がおよぶと、活動性の低下と相まって空腹感がわかず、食事を拒否するという事態も起こってくる。

 錐体外路症状により、口を開けられない、舌が丸まってしまう、頬が膨らみ舌を口蓋に挙上できない、歯を食いしばったりスプーンを噛んでしまったりなどの咬反射も観察される。さらに、病状が進行してくると覚醒不良をきたし、送りこみや嚥下反射の誘発も困難となり、経口摂取を継続できなくなる。よほどの、咀嚼送り込みが困難な場合ややむを得ないが、ある程度食べ物の味や匂いが認識でき、咀嚼機能がある場合は、誤嚥を引き起こしにくい姿勢調整に留意し、左手に茶碗を持ち、右手で食具の操作ができるような手を添えた捕食動作の介助を行うとよい(右利きの場合)。

 また、臼歯側や切歯や口腔前庭にせんべいやキャラメルコーンなどの味や香りがよい咀嚼品を挿入することで、咀嚼嚥下運動が起こり、送り込みから嚥下がスムースになる場合もある。窒息のリスクが少ない場合は手づかみで食べるということも有用な方法である。その際は摂食嚥下機能を十分にアセスメントし、窒息を引き起こさない配慮が求められる。

 開口が困難な場合は、まずは食べ物をしっかりと見せて(視覚情報)、下口唇に指腹全体を面でゆっくりと脱感作(触覚情報)をし、口唇周囲の筋緊張を緩和する。口唇緊張のゆるみがアシストしている指に伝わってきたら、食べ物をのせたスプーン先の裏側を下口唇に軽くつけて、そこから離さず、下顎を下げるとよい(運動アシスト)。開口したら、素早く躊躇せずスプーンを口腔内(口腔前庭の場合もある)に挿入し、舌へのせるとよい。口唇閉鎖を誘導することで、捕食行為を行うことができる場合も少なくない。開口が困難な場合、視覚情報が不足した状態で、口唇をスプーンの鋭利な先でツンツンと突っつくような場面が散見されるが、それでは却って口唇周囲の筋緊張を高めてしまうことになり、開口を誘導することは困難となる。口唇周囲や口腔内の知覚は三叉神経の知覚枝が支配しており、かなり鋭敏である。口腔内に入ってこようとする物への安全性が聴覚・視覚・触覚刺激により前頭葉で認識されないかぎり、異物ととらえて口を開けるという行為に及ばないことも理解しておきたい脳機能のメカニズムである。

 それでも、口に入れることが困難な場合は、上下の口唇を徒手的に引き出してスプーンを挿入したり、シリンジやカテーテルチップなどを用いたりすることもある。その際は、早期咽頭流入や誤嚥をきたさないような姿勢や物性の調整、左右の口腔前庭や口腔底に先端をおくという介助が必要である。経験的に、サラサラの液体は危険な場合が多いため、ある程度の粘性をもたせた方がよい。なお、開口困難な場合の徒手的アシストやカテーテルでの挿入などは、人間が食するという点での倫理的側面や、介助に時間を要することもあるため、家族や関係者で話し合い、どこまでを行うのかの意見統一を図ることが肝要である。

 認知症の終末期は誤嚥性肺炎の合併も多く、生命終焉のステージとなることが多く、包括的視点をもって支援スキルを駆使した上での終末期ケア、緩和ケアなどを総合的にとりいれ、本人・家族の安寧を図る食支援が求められる。